出囃子のあの高揚感

 

リズムのいいあの音楽が鳴る

ドクドクと高鳴る胸を抑えようと必死に呼吸をするけれど、無意味だった

舞台に真っ白な強いライトが当たると、大きな声を張り上げて飛び出していく

目の前に座る観客がしまい忘れたスマートフォンに少し目がいきながら、一息自己紹介を済ませる

 

ツカミ損ねた、最初のボケはもうどうやっても拾ってあげられないけれど、未だに落ち着きを取り戻さない僕の鼓動はさらに早くなる

多分口はぜんっぜん回ってない

それなのに、どこをきっかけにしたのか観客はゲラゲラと笑っている

スマホを出したままの彼女は、そのままパチパチとスマホに拍手して笑っている

指輪つけたままだと画面割れない?

 

ごめん、今ちょっと噛んだ。

 

わかってるってそんなに急に静まらないでよ

笑いに来たんだから、そういうところも笑ってあげてほしいじゃん?お願いだよ

 

 

どうもありがとうございました!

エンディングMCで次の告知をする

誰がくるんだよ、そんなライブ!

僕だってそう思うけど、あの先輩が考えてることなんて理解できないんだから

でも、面白いんだよ、だから絶対来てほしい

そう願って頭をただ下げてたんだ

 

 

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今はチャイムの音で心の準備をする

もう昔みたいに胸が高鳴る事はない

偉い人が来たってなんだ、面白い事をするわけじゃないし、ウケる必要もないんだ

 

淡々とごく淡々と時間は進む

3分間だって、2時間くらいに感じてたのに

50分が15分くらいには感じるんだ

まぁ、ほんとに体感そんなものなんだ

目の前の観客たちには3時間くらいに思うのかな、舞台仕込みの大きい声でこんなに寝られるんだから、線路沿いでも住めるよきっと

 

終わりを告げるチャイムが鳴れば

パタリと教科書を閉じて

眠る彼らはゾンビのように生き返る

挨拶とは思えない、唸り声を発し

次の部屋へと移動を始める

 

 

もう何をしても心は高鳴らない

達成感も高揚感も安心感も不安感も

何も心に声をかけてはこないんだ

 

久々にあの出囃子を聞いた

ほんの少しだけまだ心臓がドクドクした

またあそこに帰りたい

ただ、少し怖いけど

何にも感じない今よりはきっと楽しい

 

ドッと笑いが起きた時の生きててよかったというあの感覚、絶対忘れられない

 

だからきっと帰りたくなるんだと思う