逃げ場

 

初めて、仕事から逃げたいと思ってる

 

今までは何かのきっかけがあって、何かその原因から逃れようとして、どうにか乗り切ろうとしていたけど、今回ばかりは何か違う。

 

動悸は止まらない

あんなに可愛かった生徒とは距離を取りたい

楽しかった授業は拷問でしかない

まして、元から嫌だった部活なんて

精神をすり減らしてボロボロになるだけ。

 

どうしてしまったんだろう

この間までは全然普通だったじゃないか

どうしてしまったんだろう

まっすぐ歩けたはずなのに

壁にもたれて、血を吐いて、足を引きずって。

 

もう辞めるかも。いや、辞めたい。

 

2年間一度も言わなかった

辞めたいという言葉が

すんなりと家族に言えた

 

これからどうやって生きるか

もう少し考えなければならない

幸せではないという幸せ

 

 

 

人は勝手な生き物だ

 

仕事終わりに買って来た

コンビニの焼き鳥と缶ビールを

こたつに入って胃の中に収めた時

幸せだぁと深く息を吐く日もあれば

 

 

仕事でミスして

げんなりして家に帰って来た時には

上着とカバンを放り投げ

スーツのままベッドに倒れ込み

いつ仕事やめてやろうかなと

ため息をつきながら

上着をハンガーに掛け直す日もある

 

 

こんな毎日を、

なんなら後者の方が多い毎日を

不幸せだと思って生きるのはあまりに簡単だ

 

こんな日を幸せと感じてみませんか?

 

この間、そんな文章を読んだ

何かの宣伝広告だったかもしれない

 

ばーかと言ってやった

不幸せだと思う日は不幸せでいいんだよ

不幸せって思える日がないと

本当に幸せな日が幸せって思えないだろ

 

それに幸せでも不幸せでもない

フツーの日、ただのフツーの日に

幸せではないなぁって思う事はあっても

不幸せだなあとは思わないでしょうよ

 

あと、そんなフツーの日

幸せだからなお前は、ほんとに。

 

 

って言いながら

フツーの日に、幸せとは

と歌う音楽にうるせーって思ってる

 

あぁ今日もビールがうまい

幸せだ

 

やばっ、咽せた

ふざけんな死ぬかと思った

不幸せだわ今日は

 

おやすみ

泥のように眠れ

 

昨夜夢を見た

 

夢の中の「俺」は記憶を失っていた

そして、何かを探し続けていた

 

赤地の絨毯には黄金色が施され

ホールのように階段状に

座席が並んでいた

 

そこに座る人々は馴染みのある人ばかり

楽しそうに何かを待つ人もいれば

悲しそうに涙を浮かべる人もいた

 

涙を流す女性に寄り添い

理由を聞きながら必死に宥める

 

ただ、その邪魔をするように

知らない女2人がチラチラとこちらを見ている

何度も席を移動するのだが

その度に彼女たちは邪魔をする

 

ついに「俺」は怒鳴ってしまった

涙を流す女性の事が、とても大事らしい

 

まだ泣き止まない彼女が

僕の目を見て言う

「そんな人じゃない。すぐに怒ったり、怒鳴ったり怖い姿を見せるような人じゃない。」

「だからお願い、笑って?」

「私は全部知ってるから、君のこと。」

 

「ごめんね」

そう口にした時、自分が泣いている事に気付き、驚いた

彼女が優しく抱きしめてくれた

心が軽くなるようだった

ただ、まだ女2人はウロウロとしている

 

周りにいる、エキストラのような

「知らない人々」の視線が気になる

それでも、「俺」は彼女から離れなかった

 

 

目が覚めて、まだもう少し

夢の続きを見たいと駄々をこねた

枕に顔を埋めて、もう一度眠ろうとした

でも、それは無駄で

また誰かを失ったように思えた

 

彼女はもう泣き止んだのだろうか

何かとはなんだったのか

「俺」は誰だったのか

 

1日経ってもまだそんなことを考えてしまう

 

こんなに寂しい思いをするなら

泥のように眠ってしまえばよかった

 

静かに深く深く

夢など見る余裕もないくらいに

泥のように眠ってしまえばよかった

消えてしまえ泡

 

私の時間は消えていく

 

ブルーライトを放つ薄い板に

吸い取られるように消えていく

自我を失ったように

ビッグデータに操られた

次々に流れてくる脳内の縮図

 

こんなにくだらないものが好きなのか

ふと自分を振り返ると

しょうもなさすぎてため息しか出ない

 

 

あぁ、この日々はなんなのだろう

あぁ、この苦痛はなんなのだろう

心は日々すり減っていく

粉になっているのだから

どこかに溜まっているのではないかと

過去の足跡を辿るのだけれど

何も元通りにはならない

むしろさらに抉られるように胸が痛む

 

 

知らない知らない知らない

もう何も知らない

知らないと思えばいいんだ

そう、もう何も知らない

 

 

 

無理だ。

 

沸々と浮かんできてしまうんだ。

自分が見聞きしてきたもの

身につけてきたもの

学んできたもの、蓄えたもの

それら全てが浮かんできてしまう

 

命をすり減らして生きる私も

色々なものを積み上げて生きてきた

でも、もうただの重荷になってしまった

要らない、全てをゼロにしたい

 

 

それができないのはわかっている

まだ沸々と湧き上がってくる

泡がぶくぶくぶくぶくと

弾けて消えるはずの泡が

汚泥に浮かぶ、塊のように

私の心にへばりついている

 

 

お願いだ

消えてくれ、

 

消えてしまえ

なんて言葉は吐かないから。

そんなイニシアチブを

私が握れるとは思ってないから

 

頼むから消えてくれ

 

私にへばりつく汚い泡よ。

 

この祈り

それを願う時間が本当に無駄なことに

未だ私は気付けずにいる

 

いや、目を背けているだけだと思う

 

それでもまだ祈る

もう少し、人生を楽しんで生きたい、

出囃子のあの高揚感

 

リズムのいいあの音楽が鳴る

ドクドクと高鳴る胸を抑えようと必死に呼吸をするけれど、無意味だった

舞台に真っ白な強いライトが当たると、大きな声を張り上げて飛び出していく

目の前に座る観客がしまい忘れたスマートフォンに少し目がいきながら、一息自己紹介を済ませる

 

ツカミ損ねた、最初のボケはもうどうやっても拾ってあげられないけれど、未だに落ち着きを取り戻さない僕の鼓動はさらに早くなる

多分口はぜんっぜん回ってない

それなのに、どこをきっかけにしたのか観客はゲラゲラと笑っている

スマホを出したままの彼女は、そのままパチパチとスマホに拍手して笑っている

指輪つけたままだと画面割れない?

 

ごめん、今ちょっと噛んだ。

 

わかってるってそんなに急に静まらないでよ

笑いに来たんだから、そういうところも笑ってあげてほしいじゃん?お願いだよ

 

 

どうもありがとうございました!

エンディングMCで次の告知をする

誰がくるんだよ、そんなライブ!

僕だってそう思うけど、あの先輩が考えてることなんて理解できないんだから

でも、面白いんだよ、だから絶対来てほしい

そう願って頭をただ下げてたんだ

 

 

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今はチャイムの音で心の準備をする

もう昔みたいに胸が高鳴る事はない

偉い人が来たってなんだ、面白い事をするわけじゃないし、ウケる必要もないんだ

 

淡々とごく淡々と時間は進む

3分間だって、2時間くらいに感じてたのに

50分が15分くらいには感じるんだ

まぁ、ほんとに体感そんなものなんだ

目の前の観客たちには3時間くらいに思うのかな、舞台仕込みの大きい声でこんなに寝られるんだから、線路沿いでも住めるよきっと

 

終わりを告げるチャイムが鳴れば

パタリと教科書を閉じて

眠る彼らはゾンビのように生き返る

挨拶とは思えない、唸り声を発し

次の部屋へと移動を始める

 

 

もう何をしても心は高鳴らない

達成感も高揚感も安心感も不安感も

何も心に声をかけてはこないんだ

 

久々にあの出囃子を聞いた

ほんの少しだけまだ心臓がドクドクした

またあそこに帰りたい

ただ、少し怖いけど

何にも感じない今よりはきっと楽しい

 

ドッと笑いが起きた時の生きててよかったというあの感覚、絶対忘れられない

 

だからきっと帰りたくなるんだと思う